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銀はなぜ黒くなる?
シルバーを黒くしてしまう原因の一つは、「硫化」という現象。銀は空気中の硫化水素や水分中のオゾン、二酸化硫黄と反応して化学反応(硫化反応)を起こし、表面に硫化銀(Ag2S)を作り、変色します。
硫黄の温泉にシルバーのネックレスなどをつけたまま入浴して、気がつくとそれが変色していたというお話を聞いたことがあると思います。それは急激に硫化反応が起ったからです。また、硫黄を含んだガソリンを燃焼させた際に発生する亜硫酸ガスによっても変色が進みますから、お手入れをしないで外気にさらしておいただけで、シルバーは黒くなってしまいます。また、ネックレス・チェーンの首や皮膚にあたる部分が黒ずんだり、リングの内側が黒ずんだりするのは、皮膚や髪を構成しているたんぱく質の成分であるシスチンというアミノ酸に硫黄が含まれているからです。
しかし、その一方で、薬品(硫黄など)によって強制的に変色をさせる、「いぶし処理」という表現のしかたもあります。これはご存知のように、シルバー製のメンズ・ジュエリーなどに見られるものです。アンティーク調の雰囲気を出すときにも用いられます。
銀をいぶしたものは、つやが失われ、味わいのある灰色になることから、「いぶし銀」という「渋くて味わいのあるもののたとえ」を表す言葉もあります。
とはいえ、どうしてもこの黒ずみがいや、と言う方にはメッキをかけて硫化防止をする方法もあります。実は日本で市販されているシルバーの多くは、ロジウムメッキをかけて仕上げているのです。
また、シルバー製品でもその変色を防ぐために割金を工夫して変色しにくい合金を作ることをしているようです。例えば、「Pt100」がその一例です。
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Pt100とは?
プラチナ、シルバーは、世界共通で1000分率で表記することになっています。
ですから、この「Pt100」の100は1000分率でプラチナが配合されているわけです。では、その残りの900は何で出来ているかというと、銀です。
つまり、この「Pt100」は銀90%にプラチナ10%を配合した合金のことを指します。
10%のプラチナを配合することで通常の銀にはない硬さと輝きが出、銀の性質である黒ずみもなくなります。
ただし、この表現の仕方には誤解を招くことがあるので注意が必要です。一見あたかも、「プラチナが100%」というように勘違いをしてしまうことがあるからです。
ちなみに、社団法人日本ジュエリー協会(Japan
Jewellery
Association
略称「JJA」)では、「質量比で大きいものを先に記す」というガイドラインを決めています。
ですので、この場合の表記は、「Ag900」または「Sv900」(Pt100)になります。
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ロジウムメッキについて
このロジウムという金属そのものは大変硬いためにジュエリーとして加工はしませんが、その硬さはメッキとして最適。つまり、硬いので、メッキとして使うことで土台の金属に傷が付きにくくなるのです。またその色味は明るく白っぽく光ります。
このようなロジウムの長所を生かして、ホワイト・ゴールドやプラチナにもロジウムメッキは施されますが、これは日本の製品に多く見られます。
つまり、日本に住んでいると、銀本来の色、輝きを実は見る機会が少ないと言うことになるのかもしれません。
それに対して欧米ではこのロジウムメッキされたものは少ないようです。
傷がつくこと、そして銀に関しては黒ずむことも一つの味と考え、金属そのものの色味を楽しんでいるからでしょう。
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簡単なお手入れのしかた
一般にこの硫化反応による黒い膜は普段からお手入れをしていれば防ぐことができます。
簡単なお手入れ法は、普段から使い終わったらやわらかい布で拭いてからしまうこと。黒くなってしまったら、ベーキングパウダーで磨くか、あるいは銀専用の磨き剤やクロスで磨く、などがあります。
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銀の輝き
シルバーは、磨けば鏡の様に光るということもあり、古くから珍重されてきました。
中世の錬金術師は銀を月の女神ディアナ(=アルテミス、ギリシャ神話の月の女神)と呼んでいました。彼女は銀の靴を履き、銀の馬車で、銀の星が輝く夜空を舞うようにして飛んだといわれています。そのイメージは正に美しい純潔の女神。夜空の三日月をそのシンボルとしたのも頷けます。
金属の中で最高光の反射率を誇る金属がこの銀。つまり、金やプラチナなどよりも光るというわけです。ちなみに、可視光線に対する反射率は90%、赤外線は98%を反射します。銀の輝きが「純粋」「無垢」の象徴と言われるのはこの金属の中で最高光の反射率からきているのでしょう。
先程のメッキの項でも触れましたが、日本の宝飾店で目にするシルバー・ジュエリーのほとんどにメッキが施されているため、この銀本来の輝き、色味を目にすることは難しいかもしれません。でも、きれいに磨かれた銀の輝きは、このように月の女神に象徴されるほど美しいものなのです。
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銀は安っぽい?
確かに他の貴金属に比べて、安価で、放って置くと黒く変色してしまう、という銀の性質から、日本では自然と「シルバー=安っぽい」というようなイメージが定着してしまったようです。実際、1990年くらいまでは、高級宝飾店で銀を扱うところは皆無でした。
しかし、1990年台にクロム・ハーツ(Chrome
Hearts)やロイヤル・オーダー(Royal
Order)、レナード・カムホート(Leonard
Kamhout
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2000年にL.One〜Lone
Onesに改名)などのメンズ・ジュエリーに注目が集まったのをきっかけに、銀の価値と人気は高まり、男女に関わらず、シルバーを身につける人が増えてきました。
「銀は安っぽい」、そんなイメージはすでに昔の話です。